載籍浩瀚

積んで詰む

国内小説

折原一『七つの棺 密室殺人が多すぎる』

叙述トリックの名手折原一が密室に挑んだ、密室愛好家による密室愛好家のための贅沢な短編集。パロディやオマージュも豊かで、密室好きのみならず古典本格ミステリ好きならばにたりとするネタ満載の一作だ。 トリックが偶然に頼りすぎているものも多く、また…

倒叙ミステリを掌握する/石持浅海『君の望む死に方』

『君の望む死に方』は、石持浅海による倒叙ミステリのシリーズ、碓氷優佳シリーズの二作目である。 余命六カ月――ガン告知を受けたソル電機社長の日向は、社員の梶間に自分を殺させる最期を選んだ。日向には、創業仲間だった梶間の父親を殺した過去があったの…

ジャンル破壊について/森バジル『ノウイットオール』

第30回松本清張新人賞受賞作。阿部智里、辻村深月、米澤穂信、森絵都、森見登美彦の五人への「挑戦状」だ! と高らかに大きく記載された帯が印象的だ。「挑戦状」の意味は明白。この小説が五つのジャンルからなっており、意識してかせざるか、その五つという…

樋口有介『夏の口紅』

青春ミステリが好きだ。とりわけ、家族や血の関係といった、力のない青春時代には切っても切ることのできない宿命的な関係に翻弄されながら、ひとつ、あるいはふたつほど、精神的成長を遂げるような青春ミステリが好きだ。そして本作『夏の口紅』は、まさし…

青崎有吾『11文字の檻』

青崎有吾による未収録短編集である。いわゆるミステリは三作のみ。ほかには百合短編がひとつ、二次創作がひとつ、そしてショートショートがみっつ収録されている。 ファンならば必読の短編集。ファンでなくとも、どうにかして「加速してゆく」と「11文字の檻…

村上春樹『風の歌を聴け』

数年前、村上春樹のレビューでもすれば自分も小説を読めるようになるのではないかと思って書いた雑文です。 --- 世界はこんなに騒がしいのに、自分の周りは寂寞としている。こういう時、僕は本に寄る辺を求める。何も考えずに読める本がいい。だから僕は村上…

高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』

レビューにも紹介にもなっていない、インターネットへの壁打ち記事です。 --- まじもんの傑作。名前が自由であることや、独特な文体から小説、あるいは世界の形式をどうのこうのと凄さを言語化することはできてもーーとはいえ自分には手に負えないーーこの小…

社会の死角/沢木耕太郎『人の砂漠』

おそらく、人は誰しも無垢の楽園から追放され、「人の砂漠」を漂流しなくてはいけないのだ。——沢木耕太郎 個々人が属している社会には、それぞれに特有の死角が存在する。たとえばわたしの社会では、ロシア領の近くで漁を営む人々の社会は死角になっていた。…

村田沙耶香『信仰』

「"現実"は決して強固な実体じゃない。極論すればそれは、社会というシステムが人々に見せている一つの巨大な幻想にすぎない」 ——綾辻行人『時計館の殺人』 凡そ事信じ能はざる者は不幸なるかな ——内村鑑三「懐疑の精神」 村田沙耶香の作品には現実と虚構を…

伏線か物語か/梶龍雄『龍神池の小さな死体』

「トクマの特選!」というレーベルがある。絶版になっていて手に入りにくい名作昭和ミステリを、現代風に復刊している非常に優秀な文庫レーベルなのだが、そこが今回梶龍雄の『龍神池の小さな死体』を復刊させた。ミステリマニアの中では、傑作なのにも関わ…