去年の四月下旬に毎週読書会をやろうといって、一年とちょっとが経った*1。読み逃していた(あるいはもう覚えていない)古典ミステリ*2を網羅的に読むのが主目的で、ほかにはいかにしてミステリができてきたのかという文脈を追おうとしたのがこの読書会だ。レジュメとかはなく、読み、集まり、語る。シンプルにすることで継続性を高め、時折休みを取りながらも(大体は自分のキャパオーバーが原因だが)なんとか五十冊という節目を迎えた。せっかくなので五十冊のリストを備忘録的に残しておく。
ブックリスト
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ジョン・ディクスン・カー『ビロードの悪魔』
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ヒラリー・ウォー『生まれながらの犠牲者』
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E・S・ガードナー『嘲笑うゴリラ』
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ロス・マクドナルド『ギャルトン事件』
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エドマンド・クリスピン『消えた玩具屋』
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エドワード・D・ホック『サム・ホーソーンの事件簿I』
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パーシヴァル・ワイルド『検死審問ーインクエストー』
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リチャード・ニーリィ『心ひき裂かれて』
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エリス・ピーターズ『死体が多すぎる』
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D・M・ディヴァイン『五番目のコード』
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マイケル・イネス『ある詩人への挽歌』
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キャサリン・エアード『そして死の鐘が鳴る』
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エラリー・クイーン『盤面の敵』
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アガサ・クリスティ『死の猟犬』
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マーガレット・ミラー『狙った獣』
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ピエール・シニアック『ウサギ料理は殺しの味』
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ウィリアム・L・デアンドリア『ホッグ連続殺人』
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マイクル・Z・リューイン『沈黙のセールスマン』
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R・D・ウィングフィールド『クリスマスのフロスト』
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カルロス・ルイス・サフォン『風の影』
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ヘレン・マクロイ『家蠅とカナリア』
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ジム・トンプスン『ポップ1280』
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ジャック・カーリイ『百番目の男』
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ジョン・スラデック『見えないグリーン』
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レイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』
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陳舜臣『枯草の根』
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鮎川哲也『王を探せ!』
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藤原審爾『新宿警察』
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結城昌治『ゴメスの名はゴメス』
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都築道夫『ちみどろ砂絵・くらやみ砂絵―なめくじ長屋捕物さわぎ』
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多岐川恭『濡れた心』
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山田正紀『火神を盗め』
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ギャビン・ライアル『深夜プラス1』
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笠井潔『バイバイ、エンジェル』
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レイモンド・チャンドラー『さよなら、愛しい人』
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フレッド・ヴァルガス『青チョークの男』
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松本清張『Dの複合』
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山田正紀『ミステリ・オペラ』
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河野典生『殺意という名の家畜』
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レイモンド・チャンドラー『高い窓』
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笠井潔『哲学者の密室』
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ジル・マゴーン『騙し絵の檻』
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ジョルジュ・シムノン『メグレと老婦人』
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高木彬光『成吉思汗の秘密』
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西村京太郎『七人の証人』
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ジョン・ディクスン・カー『帽子収集狂事件』
感想
見て分かる通り、弩級の名作リストなので、基本的にハズレはない。なかにはこれは......という合意が得られた作品もあったにはあったが、とはいえ打率はかなり高く、楽しみながら読めた。
途中からはチャンドラー村上春樹訳を全部読もうという試みを始め、それも順調に消化していっている。通して読んでいくことで、チャンドラーは意識してミステリマニアな作品を書いているのではないかという発見もあった。なんとなく硬く正しい作品のイメージが付き纏っていたマーロウシリーズだが、新本格ネイティブの世代にもおすすめできる。実は古典と本格を意識している作家なのではないか、という気づきでいうと松本清張も当てはまる。彼ら二人の作品は、たしかに本格ミステリではない。しかし本格ミステリのエッセンスがふんだんに用いられている。乱雑に人気作を取っていくと、意外なところから癖を突かれるのが面白い。これがこの読書会の一番の効用だった。
せっかくなので、最後に個人的おすすめ十選を記す。開催順に。
- ロス・マクドナルド『ギャルトン事件』
- ニコラス・ブレイク『野獣死すべし』
- エリス・ピーターズ『死体が多すぎる』
- R・D・ウィングフィールド『クリスマスのフロスト』
- ジム・トンプスン『ポップ1280』
- ジョン・スラデック『見えないグリーン』
- 山田風太郎『太陽黒点』
- 松本清張『ゼロの焦点』
- 小林信彦『紳士同盟』
- 笠井潔『哲学者の密室』