パリ旅行のついでに『ダ・ヴィンチ・コード』を再読した。ダン・ブラウンによるラングドンシリーズの二作目、おそらく同世代以前でその名を知らぬもののいない世界的大ベストセラーだ。 しかし読んだ感想は非常に淡白だった。アクションと暗号解読によるサス…
天才は無自覚に人を傷つけるという。天賦のきらめきを見せつけられたとき、自分にはそれがないと否が応でも自覚してしまうからだ。しかし本当にそうだろうか? 傷つくのは、才能の差に絶望するからではなく、きらめきの底が見えるからではないか? あと少し…
「こんどはこんど、いまはいま」 2023年の劇場納めとして、ヴィム・ヴェンダース監督による一作『PERFECT DAYS』を見た。渋谷周辺のアートトイレを担当するトイレ清掃員平山の、繰り返しているようで徐々に変化する、つまりは平凡な日常の話だ。贅のない、最…
いろいろとせわしない昨年だったが、なんやかんやここまでたどり着いた。今年は、よりせわしなく、全身全霊をかけるべきことが多くなる予感がひしひしとしているが、まあなんとかなると信じて。 ということで2023年下半期に読んだ本のうち、長編10冊ならびに…
2023年に見た映画のうち面白かったものおよそ10作ほど挙げる。今年こそは100本見るぞなんて意気込んでいたけれども、ふたを開けてみれば遠く及ばなかった。まあでも気ままに見れたので良しとする。 なんとなく面白かった順に。 名探偵コナン 黒鉄の魚影 www.…
新刊マラソンの個人的な整理をする。対象となる本のレギュレーションは以下の通りだ。 2022年10月以降、2023年9月までに発売された本であること。 筆者がミステリだと感じた作品。 昨年同様国内総合、国内本格ミステリ、海外の三つのジャンルでランキングを…
叙述トリックの名手折原一が密室に挑んだ、密室愛好家による密室愛好家のための贅沢な短編集。パロディやオマージュも豊かで、密室好きのみならず古典本格ミステリ好きならばにたりとするネタ満載の一作だ。 トリックが偶然に頼りすぎているものも多く、また…
あらすじ 1930年、ロンドン。名探偵レイチェル・サヴァナクには、黒い噂がつきまとっていた。彼女は、自分が突きとめた殺人者を死に追いやっている――。レイチェルの秘密を暴こうとする新聞記者ジェイコブは、密室での奇妙な自殺や、ショー上演中の焼死といっ…
『君の望む死に方』は、石持浅海による倒叙ミステリのシリーズ、碓氷優佳シリーズの二作目である。 余命六カ月――ガン告知を受けたソル電機社長の日向は、社員の梶間に自分を殺させる最期を選んだ。日向には、創業仲間だった梶間の父親を殺した過去があったの…
去年の四月下旬に毎週読書会をやろうといって、一年とちょっとが経った*1。読み逃していた(あるいはもう覚えていない)古典ミステリ*2を網羅的に読むのが主目的で、ほかにはいかにしてミステリができてきたのかという文脈を追おうとしたのがこの読書会だ。…
第30回松本清張新人賞受賞作。阿部智里、辻村深月、米澤穂信、森絵都、森見登美彦の五人への「挑戦状」だ! と高らかに大きく記載された帯が印象的だ。「挑戦状」の意味は明白。この小説が五つのジャンルからなっており、意識してかせざるか、その五つという…
時間が取れなさそうなので(これをいうのが悲しい)取り急ぎ備忘録的にリストのみ作る。あまり読めていないので(これを以下略)長編短編各十作ずつ。 長編 樋口有介『夏の口紅』 長谷敏司『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』 大森藤ノ『ダンジョンに出会…
海外クラシックミステリを紹介する同人サークル、Re-ClaM編集部による同人翻訳誌『Re-ClaM eX』の第四巻。これまででセイヤーズやホック、H・C・ベイリーなどの未邦訳作品が紹介されてきた『Re-ClaM eX』が今回取り上げたのは〈ダルース夫妻〉シリーズでおな…
シャニマスサブスクめちゃくちゃ解禁&もうそろそろの5thおめでとうございます。 ビックウェーブに乗ってわくわくシャニマス胡乱話をします。評論でもレビューでも分析でも考察でも当然批評でもなく、牽強付会な都市伝説みたいな話です。都市伝説というか、…
青春ミステリが好きだ。とりわけ、家族や血の関係といった、力のない青春時代には切っても切ることのできない宿命的な関係に翻弄されながら、ひとつ、あるいはふたつほど、精神的成長を遂げるような青春ミステリが好きだ。そして本作『夏の口紅』は、まさし…
この時期になると、「師走は忙しい、街は慌ただしい」というキラーフレーズが頭のなかをリフレインする。卒業という明確な境をひとつ控えた年の瀬だからこそ、その慌ただしさは例年に比べより際立っている。とはいえ、なんとかのらりくらりと乗り切れた下半…
青崎有吾による未収録短編集である。いわゆるミステリは三作のみ。ほかには百合短編がひとつ、二次創作がひとつ、そしてショートショートがみっつ収録されている。 ファンならば必読の短編集。ファンでなくとも、どうにかして「加速してゆく」と「11文字の檻…
数年前、村上春樹のレビューでもすれば自分も小説を読めるようになるのではないかと思って書いた雑文です。 --- 世界はこんなに騒がしいのに、自分の周りは寂寞としている。こういう時、僕は本に寄る辺を求める。何も考えずに読める本がいい。だから僕は村上…
レビューにも紹介にもなっていない、インターネットへの壁打ち記事です。 --- まじもんの傑作。名前が自由であることや、独特な文体から小説、あるいは世界の形式をどうのこうのと凄さを言語化することはできてもーーとはいえ自分には手に負えないーーこの小…
新刊マラソンの感想です。ランキング候補のレギュレーションは以下の通りになります。 2021年10月以降、2022年9月までに発売された本であること。 筆者がミステリだと感じた作品。 国内総合部門、国内本格ミステリ部門、海外総合部門の三つの部門を用意しま…
ミステリ好きの集まり“素人探偵会”が35年ぶりに再会を期した途端、メンバーのひとりである老人が不審な死を遂げた。現場はトイレという密室―名探偵サッカレイ・フィンの推理を嘲笑うかのように、姿なき殺人鬼がメンバーたちを次々と襲う。あらゆるジャンルと…
題名のとおりです。コナンをテクストにミステリ漫画の面白さについて語ります。といってもここで記すのはミステリ漫画の面白さのごく一部であり、総論的なものではありません。こういう読みかたもできるよね、という読みかたの整理の過程ともいえるでしょう…
ジャニーズになにわ男子(以下なにわ)というアイドルグループがあります。現時点(2022/10/13)ではジャニーズメジャーデビュー組で一番の新顔みたいですが、一方で一番チケットが手に入りにくいといわれるほどに人気みたいです。 www.johnnys-net.jp 別に…
『天城一の密室犯罪学教程』を読み返した。その備忘録として教程ならびに密室作法〔改訂〕で紹介されている作品を以下にリストアップする。この際、邦題は最新のものに揃え、またリストはトリック別によるネタバレを回避するために登場順ではなく五十音順に…
おそらく、人は誰しも無垢の楽園から追放され、「人の砂漠」を漂流しなくてはいけないのだ。——沢木耕太郎 個々人が属している社会には、それぞれに特有の死角が存在する。たとえばわたしの社会では、ロシア領の近くで漁を営む人々の社会は死角になっていた。…
道中では忙しく感じたものの、振り返って見れば緩やかだったような気もする上半期。その期間中に読了した本の中で、新しく読んで感銘を受けたもの、再読により理解を深め評価を改めたもの、あるいは再度その完成度の高さに戦いたものを集めた。 長編・短編十…
「"現実"は決して強固な実体じゃない。極論すればそれは、社会というシステムが人々に見せている一つの巨大な幻想にすぎない」 ——綾辻行人『時計館の殺人』 凡そ事信じ能はざる者は不幸なるかな ——内村鑑三「懐疑の精神」 村田沙耶香の作品には現実と虚構を…
「トクマの特選!」というレーベルがある。絶版になっていて手に入りにくい名作昭和ミステリを、現代風に復刊している非常に優秀な文庫レーベルなのだが、そこが今回梶龍雄の『龍神池の小さな死体』を復刊させた。ミステリマニアの中では、傑作なのにも関わ…
一体いつの『紙魚の手帖』だ? と自分でもなってますが、とりあえずこういうのは続けるのが大事なので、投稿します。エタらないことこそが命! 『紙魚の手帖 vol.2』 『紙魚の手帖 vol.2』 ネタバレなし感想 「羅馬ジェラートの謎」米澤穂信 「百円玉」村嶋…
『ミステリーズ!』が終わり、新たに総合文芸誌として刊行された『紙魚の手帖』。その創刊に立ち会えたので、折角ならと、レビューの練習もかねて読書記録を残すことにします。 『紙魚の手帖 vol.1』 『紙魚の手帖 vol.1』 ネタバレなし感想 「三人書房」柳…