新刊マラソンの個人的な整理をする。対象となる本のレギュレーションは以下の通りだ。
- 2022年10月以降、2023年9月までに発売された本であること。
- 筆者がミステリだと感じた作品。
昨年同様国内総合、国内本格ミステリ、海外の三つのジャンルでランキングをつける。
国内総合
- 例年よりも読めた冊数は少ない。しかし、その割には満足のいく一年だった。
- 刊行当時、いや雑誌掲載当時から、『君のクイズ』はひとつの理想系だった。これを超えるミステリは今年一年内には現れないだろうと思っていた。現れなかった。
- 米澤が新作長編を書いた! それだけで胸の内で喜びの舞を踊っていたが、本作は米澤青春ミステリとしても、『いまさら翼といわれても』を経て、ひとつ次へいったことを実感させてくれる傑作だ。
- 『ラウリ・クースクを探して』では、どう記述したか、なぜ記述したのか、そしてだれが記述したのかの三点が密接に絡みあっている。それがミステリとして炸裂するのが、やりすぎではないかと思わなくもないが、しかし面白く、それでいて納得させられたのだから仕方がない。
- 早瀬耕も、久しぶりの、本当に久しぶりの長編だった。『未必』に並ぶ傑作とまではいわない。しかしテクノロジーを物語に絡まされるという点で唯一無二の才を発揮してくる早瀬の秀作である。
- 『アリアドネの声』は読んでいてただただ没頭できた一作。一気読みの快楽を覚えることができる。なにも考えず、おもしれ〜って思えた。
- 『木挽町』では初めて永井に触れることができた。どうやら永井紗耶子はすごいらしいということは聞いていたのだが、手に取るまでに時間がかかった。自分は第四章あたりから一気に引き込まれ、そして読み終わったあとには、騙しの仕掛けに白旗を挙げていた。騙すことそのものも、物語になりうるのだ。
- 他にも『11文字の檻』や『鈍色幻視行』、『踏切の幽霊』に『本売る日々』などが良かった。
国内本格
- 2022年から2年、白井智之イヤーが続いている。もともと凄腕の作家だとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。白井智之は多くのミステリファンを釘付けにしただろう。
- 推理を納得させるためにはどうすれば良いか? 警察小説の形を使って、純粋ミステリ空間を生み出した本作では、論理のアクロバットを問い側で行うという試みがなされていた。米澤の飽くなきミステリへの挑戦が窺い知れる一冊だ。
- 面白えじゃん中村あき......。まさか恋愛リアリティと本格ミステリの座組がここまでマッチするとは。どちらも嘘っぽい世界観なのが良いのだろうが、世界観のみならず、繰り広げられる殺人劇ならびに推理も地に足ついていて、とても楽しめた。
- このタイトルがお出しされたときに、みんな東野流本格を期待したと思うのだけれど、ちゃんとそれに応えてきた。東野圭吾はすごいと再確認させられる。初期作ばかりが本格ファンにフィーチャーされるが、その腕は未だ健在だ。
- 柄刀国名シリーズ最終作。最後までロジックに淫した作品集で、とにかく濃く、それでいて真摯に本歌取りをやっている。それでいて作者らしい密室トリックも随所に練り込まれており、読んで損はしない良シリーズとして幕を閉じた。クライマックスとして探偵役の南が、心震わせてくれるような推理をしてくれるところも見所だ。
- 最後は迷った。著者への期待を鑑みると『化石少女と七つの冒険』は、決してただ嬉しいだけのものではなかった。とはいえ、まあミステリのクラシカルな面白さがある本作を楽しめなかったかといえば嘘になる。
- 『化石少女と』と迷ったのが『しおかぜ市』、その次に『午後のチャイムが鳴るまでは』だろう。偏愛だと、古野まほろの望外の新作『ロジカ・ドラマチカ』も、まほろじっく炸裂で嬉しかった。
海外
- ホリー・ジャクソン『卒業生には向かない真実』
- 孫沁文『厳冬之棺』
- アンソニー・ホロヴィッツ『ナイフをひねれば』
- マーティン・エドワーズ『処刑台広場の女』
- ジョセフ・ノックス『トゥルー・クライム・ストーリー』
- ロバート・アーサー『ガラスの橋』
- 海外に関しては本当に読めずじまいな一年だった。旧作ばっか読んでしまい、面白そうな新作を次々と読み逃していった。反省のほうが多い。
- 『卒業生には向かない真実』として、青春ミステリ三部作の三部目。こんな幕切れの仕方もあるのかと、声が震えた。どこに連れて行かれるのか全く先が見えない。まだ先の長いピップの人生だ。幸せになってくれと、読んでいて深く願ってしまった。
- 『厳冬之棺』は、もうニヤニヤが止まらないような奇想物理トリックが大炸裂する一作だった。密室ミステリに求めているモノが詰まっている。年三くらいでこういうのが読みたい。
- ホロヴィッツは毎年面白い。今年も面白い。自分はホーソーンのシリーズの方が好きなので、その分の加点もあるとは思うが、このシリーズでは毎度毎度事件の巻き込まれ方がよく練られているのだ。だからこそ序盤から一気に引き込まれる。今回はホロヴィッツが最重要容疑者になる。そこからホーソーンという謎の探偵の秘められた部分にまで踏み込んでいくのだから流石だ。
- 『処刑台広場の女』は本格だと思っていたらサスペンスよりだった枠なのだが、しかし古典ミステリの名評者による作品というだけあって、随所から古典の手つきが垣間見える。
- ノックスの新作『トゥルー・クライム・ストーリー』は、昨年の『ポピー』に続く、証言やメールなどの記録のみで構成された一作。このパターンでやれることを全部やってるのではというくらい詰め込まれた一冊だが、その分長い。長さがネックで、簡単には薦められないが、とはいえ読ませるように作られている。来年もノックスの新作が読みたい!
- これまた古典の面白さというか、ミステリってこういうところが面白いよねというエッセンスが詰まった短編集が『ガラスの橋』であった。ミステリを好きなことが伝わってくる、安心感のある一冊だ。
来年もミステリをいっぱい読むぞ!!! 良いお年を!